文豪たちは今日も生きている~何でもないはずの日常に潜むレトリック~

30代後半ともなると、日常で降りかかるあらゆる出来事に関心を示せない自分がそこにはいた。「こういう時にはこうやって対処すれば良かったよね。」いつの間にか、ステレオタイプ化された自分。。。そんな ”ありふれた日常” にも、本当は潜んでいるはずの非日常を探しに・・・

人生逆転ゲーム

福本伸行の『カイジ』。

随分前からコミックで出版され、人気が出てからは映画にもなった。

 

その映画も、本来は2部作で終わるはずだったようだが、好評だったようで、ついに『ファイナルゲーム』という第3作が公開された。

第3作は、コミックには一切ないストーリー。映画版ならではの話だ。

昨日観に行った。

 

 

カイジ』という話は、どこにでもいる "覇気の無さ気な" 若者が、カリスマ性を発揮して、"人生の成功者" と呼ばれる大人たちと対決し一矢報いるという話だ。

物語の最後は、いつも決まって、大金を手放すことになり元の貧乏生活に戻るというオチなのだが。。。

 

この話は、日本人の中流意識の高さに焦点を当て、「いつでも誰でも、"社会の底辺" と見られる下流階級まで落ち込む可能性はあり、それでも自分の意思で生きていくことが尊いのであるから、社会の価値観に振り回され過ぎず結果ばかりに気を取られる必要もないよ。」。

ざっくり一言で言ってしまうと、そんなメッセージ性があるのだ。

 

「なんだ、随分と青臭い話なんだな。」

なんて思いもするが、、、

リストラや派遣切りというのが一昔前に流行ったことを考えると、他人事ではないし、筆者も人生で一度だけ派遣切りにあってその痛みは知っているつもりだし...

 

 

それはさておき。

 

カイジの表向きのメッセージ性とは別に、僕は "裏のメッセージ性" というのを感じ取っている。

 

「人生の勝者になれるという甘い誘惑があったら、断れるのか?」

 

お金、地位、安定・・・

諸々の報酬と引き換えに、一つだけ悪事を働いてほしい。

そんな時、その誘惑を断れるのか??

 

 

切り口を変えてみる。

例えば、つい先日逮捕されてしまった槇原敬之容疑者。沢尻エリカ被疑者も。

 

 覚せい剤や危険ドラッグというのは、絶対に行ってはならないと、社会からは認められていない行いだが、それを犯してまで本業を成功させ続けることを選択した結果なのだ。

「見つからなければ良い。」「大丈夫、見つからない。」という気持ちがあったことは言うまでもない。

でも、いつ発覚するか、内心はビクビクしていたはずだろうし、けっして幸せな状態だったとは言えないだろう。。。

 

そうまでして、薬がくれる快楽・快感の誘惑に勝てないというのだから、相当なもんがあるんだろうなぁと。相当な効き目があるわけだ。

 

金にもなるわけだ。

薬物を作ったり、運んだり、売却すれば、楽して金が手に入る。。。

 

 

以前、警察学校でお世話になった教官で、忘れられない教官がいる。

 

その教官は、現役の刑事さんで、覚せい剤等(薬物)&暴力団性風俗の取締り専門の刑事さんだった。

現場でも、"凄腕の刑事" として知られ、県内の関係者で知らない人はいないと噂されるほど切れ味が凄かった。

だから、警察学校の教官に選ばれたというわけだ。

 

教官というのは、全ての教官が期間限定である。

例外はない。

したがって、必ずいつかは現場の一線に戻ることになる。

「君たちが現場で活躍する頃、共に現場で働ける日が来ることを楽しみにしている。」というのが決まり文句である。

筆者も、警察学校卒業と同時に、現場に戻る教官がおり、たまたま同じ署に配属され、今度は一線署でもお世話になったなんてこともあった。。。

 

 

そんな昔話をするつもりではなかった。

凄腕の刑事さんの話。

 

 その刑事さんが、たまたま寮の部屋の担当教官になった。

眼光が鋭く見た目は怖かったが、優しい方だった。

室員たちを可愛がってくれた恩は今でも忘れていない。

 

その刑事さん兼担当教官が言ってくれた言葉を一つだけ覚えている。

 

「君たちが長い人生を生きていると、トントン拍子に上手く行くことがあり、、、必ず "甘い誘惑" にぶち当たることがあるだろう。必ずある。そんなとき、まさに自分が試されている時なんだと思って、ここで生活して得たことを想い出してほしい。」

 

そんな言葉をくれた。

 

きっと、あの刑事さんも、"甘い誘惑" にぶち当たったことがあったからそんなことを言うんだろうし。。。

そして、その誘惑に勝てたから、凄腕の刑事として活躍し続けられたんだろうなぁ。

 

 

 

自分はまだ、甘い誘惑と思えるような体験はない。

だが、長い人生の中で、いつか、そんな誘惑が一度はあるかもしれない。

 

カイジを観て、そんな昔話を想い出した。